交わらない川と道。
 
 
 
■ いさかいをして、女がドアを開け、外に飛び出す。
 午前二時。外は雨。傘は持たない。
 当然、あとを追う。敷石を走って女の手を取り、戻るように言う。
 女はなかなか了解しない。男がかなり決定的なことを口にし、ようやく女の歩調が緩やかになる。
 こうした経験は三十近い男なら、一度や二度はある筈である。
 決定的な内容が、愛であったり、結婚であったりすることも、ある。
 男は追いかけている事実に酔う。何人もの男を蹴散らして相手を獲得したと考える。ドラマチックだよなあ。でもそうかなあ。
 今、私はどうか。
 と、いうとかなりうんざりした気分の方が強い。
 何年か前、同じように追いかけて、
「青春みてえなこと、してんじゃねえよ」
 と、言い、フラれたことがある。
 
 
■ これは、何年か前のお話。
 今はどうかというと、雨降ってれば、追いかけない。
 鍵かけちゃう。